国税当局の「調査事務運営の基本方針等」には、ICTの進展などを踏まえ、「データ活用を前提とした事務運営」を推進すると明記されている。資料情報の収集や入力作業の段階で、AIなどによるデータ活用を念頭に置いているそうだ。そして、申告事績や法定調書などの蓄積データをもとにしたAIによる分析結果と、国税職員が独自に収集した資料情報などを併せて検討し、「調査必要度の高い納税者等」を抽出して調査対象を決めていく。AIを活用した予測モデルの採用で、調査の効率があがったと国税当局は強調する。
ここでいう「調査必要度の高い納税者等」とは、過去の調査事績などの傾向から申告漏れの可能性が高いとAIが判定した納税者を指す。所得税・個人消費税の調査でいえば、「富裕層」、「海外投資」、「インターネット取引」、「無申告」、「消費税の還付申告」、「所得税の還付」というキーワードが絡む層や手続きなどは、機械的に抽出されやすい。関連する関与先は、痛くもない腹を探られるおそれがあるというわけだ。
具体的にみていくと、近年の所得税調査で国税当局が積極的に資料情報を収集している対象の一つが、暗号資産の取り引きだ。国税庁が11月29日に発表した調査事績によると、「暗号資産等取引」を行っている個人への実地調査は535件で、1件当たりの申告漏れ所得金額は2356万円、その追徴税額は662万円に上る。所得税調査全体の1件当たりの申告漏れ所得金額1370万円の1.7倍、同じく全体の1件当たりの追徴税額275万円の2.4倍に当たり、高額になりやすいことが分かる。
それ以上に追徴税額が高くなる傾向にあるのが、富裕層への所得税調査だ。国税当局は、有価証券・不動産などの大口所有者や経常的な所得が特に高額な個人、さらに海外投資などを積極的に行っている個人などを「富裕層」と定義して、「資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に積極的に調査を実施」(国税庁発表資料)している。
富裕層を対象とした所得税の実地調査は23年度に2407件実施され、1件当たりの申告漏れ所得金額は2723万円、追徴税額は707万円だった。所得税調査全体と比べると、それぞれの額は2倍と2.6倍にもなる。さらに「海外投資等を行っている富裕層」に絞れば、その金額は跳ね上がる。1件当たりの申告漏れ所得金額4819万円は全体の3.5倍、追徴税額1290万円は4.7倍で、海外投資を行う富裕層が所得税調査の狙い所≠ニなっている現状がうかがえる・・・(この先は紙面で…)